Greens千葉〈連載2〉「選挙制度改革で死票を減らし、日本にも民意を反映した政治を!」:首長選挙は本当に民主的な制度?


(開かれた議会シンポジウムでの発言ビデオ)
     
 実は首長選挙には、構造的な欠陥があります。08年2月、国民の圧倒的な支持を得て当選した韓国の李明博大統領。彼が実施した、米国産牛肉規制緩和に対 する国民の怒りはすさまじく、

「追いつめられた李明博の運命、全閣僚辞意…支持率17%台」
「全土で数十万人もの人々が李明博政権に抗議.…小中高生も多数参加し、彼らや彼女らは反・李明博サイトに『嘘つき政府』と書き込んでいる」(いずれも 08・6・12『日刊ゲンダイ』)

 わずか3ヶ月前の選挙の時から李明博に対する国民の評価が大きく変化したのですが、一度与えてしまった権力は強大であり、少なくとも任期中は取り上げる のが困難です。しかし実際は、権力を分散させた方が政治の透明性が格段に増すと同時に、政策実施過程においても国民と十分な議論ができるのです。国民が直 接、知事や市長を選べるため、首長制度=民主主義だと思っている方が多いと思いますが、これは実は大いなる誤解なのです。

 首長選挙においては、ポピュリズム(大衆主義、人気迎合主義)に陥る危険性も高いと言えるでしょう。『婦人公論』08年6月22日号で、上野千鶴子氏は 姜尚中氏との対談「米大統領選、病める大国を救うのは誰か」の中において「選挙戦が始まって半年以上たっていて、それでもなお政策的な争点がクリアになら ないということは問題です。日本のポピュリズムが一番発動された地方自治体の首長選挙と同じです。『とにかく変わらなきゃ』『どげんかせんといかん』と いった、意味のないアピールだけが効果を持つ…(中略)それは、直接選挙にちかいところで必ず発生するポピュリズムですよ。その典型が韓国の大統領選挙に 表れた。向こうは日本より明確なネット社会で、民衆が政治を動かす」のだと述べています。

 ポピュリズムに陥った選挙において、巧みな話術やパフォーマンスをもって鼓舞・扇動される有権者は、首長を自ら選んでいると言えるのでしょうか?「選ば されている」に過ぎず、皮肉にもその結果が「政治を動かす」ことになっているのです。その判断ミスを「有権者の責任だ」と評価するのは容易ですが、その背 後には大衆を操作しようとする力が働いていることも見逃してはなりません。 
 
男女共同参画の実現を遠ざける首長選挙
 
 首長選挙は1人区であるため、2大政党いずれかの支援を受けた候補者が非常に有利です。同時に、強大な権力を持つ首長には女性よりは男性の方がふさわし いという考え方が根強く(表1)、公的部門における管理職の男女比率(表2)にも影響を与えています。

(1)地方自治体首長における女性比率
(2006年9月現在)
知事 10.6%(47人中5人)
副知事 6.8%(73人中5人)
市長 1.2%(768人中9人)
町村長 0.4%(1568人中7人)

(2)女性管理職比率
(2005年現在)
都道府県本庁 3.4%
都道府県支庁 6.4%
政令指定都市本庁 5.1%
政令指定都市支庁 9.1%
裁判官 13.7%
検事 9.5%
弁護士 12.5%

出典(1、2とも):辻村 みよ子(東北大学)『ポジティブ・アクションの可能性』

 ヨーロッパのいくつかの国々を見ても首長選挙は行われておらず、議会を中心とした合議制によって地方行政を営んでいることが分かります。高い女性議員比 率はそのまま、執行機関の構成が決まる際にも反映されるでしょう。

「執行委員会(日本で言う市長職に該当する機関)は市議会議員の中から選挙される。各党の市議会議員の数に比例し て分配される。すなわち与党のみで市長職 を独占することはない」
    『スウェーデンの分権社会』 伊藤 和良 著
  
「フランスの自治体首長は議会が選出する…さらに首長と同様、議会で選出され執行機関を構成する複数の助役についても…」
    『女の新聞 01年4月10日号』 
 
「ノルウェーでは市長は直接選挙ではなく、議会で最大多数を取った政党の中で互選される」
    『男を消せ』 三井 マリ子 著

 国会はもちろんのことですが、地方議会選挙についても比例代表制に改め、それを踏まえたうえで首長の権限を大幅に減らし、議会中心の地方行政に切り替え ていくべきでしょう。

 しかしこのことに限らずいくら改善策を国民に訴えてみても、それだけでは直接的な世直しには繋がりません。そこでもう一歩踏み込んだ提案をします。「首 長や1人区の選挙{民意集約(=切捨て)型}では、死票回避のためにやむを得ず二大政党がらみの人物に投票する代わりに、比例区(民意反映型)や2人区以 上の大選挙区では平和希求政党に投票することで、2大政党とのバランスをあえて作り出す」このような選挙制度修正投票を全国に広めることを、みなさんにお 勧めします。

 選挙制度のマジックによって実力以上の票を獲得できる2大政党と均衡を図るために、意識的に戦略的投票を実施することが世直しに近づく大きな 第一歩になると私は確信します。《民意の縮図となる議会や行政組織を目指す》ための投票方法を示すべきなのです。

 「人間は本来、人間男類と人間女類と区別して考えたほうがよく、男と女は天と地ほど違う性で全く別の生きものである」(小説家・渡辺淳一)とするなら、 人間類別をも反映させた議会とするためには男女半数ずつであることが最低限、必要な措置だと私は考えています。全ての改革はここから始まる、といっても決 して過言ではないでしょう。