Greens千葉〈連載3〉
前犬山市長 石田芳弘氏から
民主主義社会をめざした究極のアプローチ
〜地方議員選挙は比例代表制で実施、市の部長職は議員が兼職で〜
08・8・3「ヨーロッパの地方自治と選挙
〜元気なまちは選挙制度改革から〜」報告(『Greens千葉』10号掲載)
(開かれた議会シンポジウムでの発言ビデオ)
田口 房雄 (「開かれた議会をめざす会」会員)
石田芳弘氏は、国会議員秘書をへて愛知県議と犬山市長を3期ずつされた後、昨年の愛知県知事選に立候補、現職と2%差で次点という超惜敗でした。
「国政よりも地方政治の改革のほうが早いし、身近でリアリティーがある」「議会は世の中の縮図にしなければいけない」といった、民主主義の原点にかかわ る極めて的確な指摘を聞くことができました。
「みどり千葉」の関連団体「みどりのテーブル」が、前回の参議院選挙の際に作成した川田龍平さんのマニフェストに「自治体議会についても比例を基本とし た選挙制度を導入して、住民の意志を適切に反映できるようにする」との文言があります(『Greens千葉』8号参照)。石田氏がまさにこれと同じ主旨で 発言をされていることを偶然に知り、「みどり千葉」として今回の講演を企画しました。ヨーロッパのような「みどりの党」を日本でも立ち上げようとしている 私たちにとって、石田氏の発言は大変に勇気づけられるものでした。
スウェーデンを訪問して、石田氏は「自治体議員選挙は比例代表制にするべきだ」と主張しているのですが、その背景にあるのは県議時代の生々しい経験でし た。「県議たちが集まってする話の8割は、『どうしたら次の選挙に当選するか』といった情報交換でした。」それが彼の属していた保守系会派の当時の実態 だったそうです。この呆れた状況も、議員の責任というよりは、個人に投票する現行選挙制度の宿命だと私は感じています。ただし彼は、「首長たちが集まった ときの90%は政策検討の話だった」と付け加えていました。
さらに石田氏は、「首長と地方議会による現行の二元代表制は間違いのもと、日本はごまかされてきた。議会中心の一元代表制(国と同じように議員から首 長・各部の部長を選出する制度)に切り替えるべきだ」と主張しています。つまり、行政の部長職は議員が兼職であたるべきということですね。さらに「一元代 表制が憲法違反にあたらない」とする論拠として日本国憲法前文を読みあげ「議員というのは国民の代表だと書いてある。ここから憲法が始まっているんです よ。地方議員が行政をやってはいけないとは憲法のどこにも書いていない」と、話しています。知事と県議会が互いに「自分たちが県民の代表である」とした不 毛の対立を演じた長野県を例に出し、「首長と議会がねじれたときに混乱しやすい」と、二元代表制の問題点を指摘していました。
石田氏はその打開策として、スウェーデンの執行委員会制を紹介してくれました。「地方行政の部長は全員、議員を兼ねていてフルタイムの給料が支給され る。これらの行政ポストは各政党の得票率に比例して配分されるので少数政党にも相応に与えられる」とのことでした。執行部に入らない者はボランティア議員 として、給料はかなり低いのだそうです。石田氏は日本の現状を指して「市長部局予算のチェックだけに終始するならば議会そのものが不要、監査委員会だけで 十分である」「首長が絶大な権限を握る現在の二元代表制は、熱意ある議員にとって意欲を低下させてしまう。制度選択については各自治体の自由意志に任せる べきだ」としています。「議員に直接行政にあたらせ、予算も自分たちが作ることで議会に責任を持たせるべきだ」というのが彼の根本的な考えです。今の日本 における首長選挙ではたくさんの死票が出るか、二大政党相乗りによる事実上の無投票選挙になりやすく、民意が反映されているとは言えません。そうした観点 からも、西・北欧のような執行委員会制が優れていると私は考えます。
【参考】愛知県知事選 結果(07年2月4日投開票)
神田 真秋 (自民応援)1,424,761 48・4%
石田 芳弘 (民主応援)1,355,713 46・0%
あべ 精六 (共産応援)160,827 5.4%
男女共同参画、学校教育への提言
議会への男女共同参画がなかなか達成されない現状への苛立ちを石田氏がこう語っていたのは印象的でした。「犬山市では10年前から話をしていたのに遅々 として進まない。スウェーデンのように比例代表制にして政党名簿に男女を交互に登録しておけば、放っておいても女性議員は増える」とのこと。
学校教育に対して、石田氏は大胆な提言と力強い改革を実行してきました。犬山市と言えば07年2月に行われた「全国統一テスト」を、唯一拒否した自治体 として有名になっています。テストは「文科省の強制力のない行政指導だった」ことに着目し、「例え裁判になったとしても、自治体は国と闘う姿勢を持つべき だ」と言うのです。そして、15歳の若者たちが政党活動に参加しているスウェーデンの実態を話した上で、「日本でも15歳以上の子どもたちに政治教育をす るべきだ」との思い切った主張をしていました。あちらでは首長選挙がないうえ、議会も政党中心の選挙であるため、中立性を求められる学校現場でも政治教育 カリキュラムとして選挙を扱うことは容易なのだろうと想像できます。全人的な教育としても好ましい題材となるでしょう。
スウェーデンでは選挙権のみならず被選挙権も18歳から与えられていることも画期的なことですね
費用対効果の観点で〜今すぐ試行の準備につこう
今回の話の中で最も重要なことは、民意や男女比を反映させた地方行政制度の実例でした。スウェーデンでは、行政の失政は政党の得票数の減少に直結するの で、日本の役人組織と違って良好な競争原理が働くのではないかと想像できます。石田氏の話を聞いていて私は強烈な躍動感とともに、次のような意気込みを感 じ取り、私は強くひきつけられたのでした。『このままでは日本は壊滅的な打撃を受けるだろう。残された時間はあまりないからこそ、デモクラシーの真髄をつ いた改革が早急に必要なんだ』と。
この報告に対して先日、石田芳弘さんから次のメッセージをいただきましたのでご紹介します。
「私のムネの内を実に的確にレポートにしていただいて爽快です。
千葉県に最も親しい友人を得た思いです。
われわれの思想と運動は必ず、
日本全体の心ある人々に伝わって
行くと信じます。強い情熱と
使命感を持って、研究を続けたい
と思います。ありがとうございました。」
[本稿を短くした版は『もうひとつの世界へ』 No.17(2008年10月1日刊行)にも掲載されました。]