私の提言:学校指定服は必要か

「着ない自由」検討開始を

 服装とは本来、気候や体調に合わせて変えるものだ。子ども達の服装も、小学校までは制服やジャージーの指定がなく、それに合わせた着こなしの知恵が養わ れる。ところが、中学校からは突然、「服装指導」によって指定服を強制され、それが崩されていく。
 すべての子どもが指定服を着た色彩のない単一色の教室は、他者との違いが目立つ。ささいなことでも、生徒同士で評価の対象となり、お互いの視線が気にな るようになる。それによって横並び志向が広がり、自己主張がしにくい閉そく的空間が生まれる。
 また、女子の指定服にはズボンがないので、脚を気にする人には不快だし、冬の寒さを耐えるのはつらいだろう。指定服には季節感や生活実感はなく、アト ピー性皮膚炎で悩んでいても「横並び意識」によって、自分だけが学校から許可をもらって楽な服装をするわけにはいかないという人も多いだろう。
 「お金がかからない」「中学生らしい服装だ」などの理由から、「指定服制度には利点も多い」として支持する人も多い。しかし、このような弊害の深刻さを どれだけ認識しているのか、私は疑問に思う。
 私の調べでは、制服を強制していないのは、東京都杉並区立の中学校で23校中9校、都立定時制高校では103校中101校、全日制高校では208校中56校にのぼる。県内でも千葉市立打瀬中学校と千葉大付属中学校が、高校では2校が制服 の強制がない。
 1990年3月、「中学の制服は強制ではない」という最高判決が出された。同月の柏市議会で、教育長(当時)は「制服とは言わずに『標準服』とか『奨励 服』とかいう言葉で呼ぶべきもの」とし、同年9月市議会では「拘束性、強制的色彩は薄い」と答弁している。
 このように、制服というものは、快適な生活を送るための基本的人権にかかわり、子ども自身の固有の権利に属する問題だと考える。何年も前から「制服論 争」は起きているが、学校や親の認識に変化はなく、「指定服を着ない自由」は一向に広がっていない。
 指定服問題で悩んでいる保護者、生徒は共同行動を取ってくれる人を探し、集団で学校側と交渉する必要がある。学校側は指定服の弊害を認識し、「着ない自 由」を認める方向で検討を進めてほしい。

1998.11.5朝日新聞(千葉版)より

●元柏市立中学校社会科教諭 田口房雄さん 
 たぐち・ふさお  柏市在住、44歳。柏市役所に勤務した後、1979年から13年間、柏市立逆井中学校などで社会科の教諭をした。現在は「かしわ男女 共同参画推進ネットワーク」「柏市教育対話集会」などの運営に携わっている。